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神戸地方裁判所 平成4年(ワ)2023号 判決 1996年4月25日

原告

納輝雄

被告

簔田光弘

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金八八万九九四四円及びこれに対する平成三年七月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金一二九六万二四二〇円及びうち金一二〇〇万円に対する平成三年七月二〇日から支払済みまで、うち金九六万二四二〇円に対する平成八年二月九日から支払済みまで、各年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負つた原告が、被告簔田光弘(以下「被告光弘」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、被告簔田隆信(以下「被告隆信」という。)に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、うち金一二〇〇万円(訴状における請求額)に対する本件事故発生の日から支払済みまで、うち金九六万二四二〇円(追加された請求額)に対する右追加請求を記載した書面が被告らに到達した日の翌日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による各遅延損害金である。

また、被告らの債務は不真正連帯債務である。

二  争いのない事実等(証拠の記載のない事実は当事者間に争いがない。)

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成三年七月二〇日午後三時四五分ころ

(二) 発生場所

兵庫県洲本市千草丙一四三番地南方約一〇〇メートル先道路上

(三) 争いのない範囲の事故態様

本件事故の発生場所は、北から見て、南へ向かう道路がやや左(南南東方向)へ湾曲するあたりである。

原告は、軽貨物自動車(神戸四〇て五九八五。以下「原告車両」という。)を運転し、右道路を、南南東から北へ向かおうとしていた。

他方、被告光弘は、小型貨物自動車(大宮四五や三四三四。以下「被告車両」という。)を運転し、右道路を、北から南南東へ向かおうとしていた。

そして、原告車両の前面右部と被告車両の前面とが、正面衝突した。

2  責任原因

右発生場所は、被告車両の進行してきた方向である北から見て、湾曲していく左側が山であり、木が道路にかぶさるようにして生えているため、前方の見とおしが悪い。

にもかかわらず、被告光弘は、被告車両を運転して道路中央部を漫然と進行した過失がある(甲第四号証の一、被告光弘の本人尋問の結果により、同被告の過失の存在が認められる。)。

また、被告隆信は、被告車両の運行供用者である。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  過失相殺の要否・程度

2  原告の損害額

四  争点1(過失相殺)に関する当事者の主張

1  被告ら

本件事故の直前、原告車両も道路中央部を漫然と走行していた。

また、被告光弘は、衝突の直前、これを避けるために急ブレーキをかけ、ハンドルを左に切つたが、原告は、ハンドルを左に切るという動作をとらなかつた。

これらの事情によると、本件事故に対し、原告の過失割合が少なくとも七割はある。

2  原告

本件事故の発生場所は見とおしが悪かつたため、原告は、原告車両を減速しながら、道路の左側に寄せて走行していた。そして、被告車両を発見するや直ちに制動措置をとり、原告車両を完全に停止させた。

ところが、被告光弘は、被告車両を運転し、制限速度をはるかに上回る速度のまま、道路中央部を漫然と走行していたため、被告車両を停止させることができず、完全に停止していた原告車両に衝突し、原告車両はその衝撃で後方に押し戻された。

これらの事情によると、本件事故は、もつぱら被告光弘の過失により起きたもので、原告の過失割合はほとんどない。

(なお、原告は、訴状では、自らの過失割合が二割程度あることを認めていたが、後に、右のように主張を変更した。)

第三争点に対する判断

一  争点1(過失相殺)

1  甲第四号証の一及び二、第五号証、乙第一号証、原告及び被告光弘の各本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、右争いのない事実等に記載の事実の他に、次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故の発生場所は、山間部を走る幅員約四・三メートルないし約四・五メートルの道路である。

そして、前記のとおり、被告車両の進行してきた方向である北から見て、湾曲していく左側が山であり、木が道路にかぶさるようにして生えているため、原告車両からも被告車両からも前方の見とおしが悪い。なお、被告車両の進行してきた方向である北から見て、右側にはガードレールが設置されている。また、北から南へかけて、勾配一〇〇分の一程度の上り坂である。

(二) 被告車両は、本件事故直前、サードギアの状態で、時速約四〇キロメートルで走行していた。また、被告光弘は、本件事故の発生場所付近が、山間部を走るカーブの続く道路で、交通量がきわめて少ないことを知つていたため、道路中央部付近で被告車両を走行させていた。

そして、前方約二三・五メートルの地点に対向して進行してくる原告車両を認め、直ちにブレーキをかけたが及ばず、約一二・二メートル走行した後に原告車両の前部に自車を衝突させた。

(三) 他方、原告車両は、本件事故直前、時速約三〇キロメートルで走行していた。また、原告も本件事故の発生場所付近の道路状況を知つていたため、道路中央部付近で原告車両を走行させていた。

そして、前方に対向して進行してくる被告車両を認め、直ちにブレーキをかけたが及ばず、被告車両の前部に自車を衝突させた。

また、右衝突後、その衝撃で、原告車両は後方に約二・二メートル押し戻された。

(四) 本件事故の発生場所には、原告車両及び被告車両がブレーキをかけてから衝突するまでに路面に記したと思われるスリツプ痕が残されている。

そして、原告車両のスリツプ痕の長さは、右四・三メートル、左四・二メートルであり、被告車両のスリツプ痕の長さは、右六・二メートル、左五・七メートルである。

また、原告車両及び被告車両のスリツプ痕の位置等から認められる車両の衝突地点は、道路のほぼ中央である(道路の幅員が約四・五メートル。右衝突地点は道路西側から約二・六ないし約二・七メートル。)。

2  右認定に反し、原告本人尋問の結果の中には、被告車両は道路の左側に寄つて走行していた旨の部分、被告車両が完全に停止した後に原告車両が衝突してきた旨の部分があるが、乙第一号証(原告の司法巡査に対する平成三年七月二五日付供述調書写し)に照らし、直ちに信用することができない。

また、右認定の衝突地点に照らすと、衝突の直前、被告光弘のみがハンドルを左に切り、原告はハンドルを左に切るという動作をとらなかつた旨の被告らの主張を採用することはできない。

3  右認定事実によると、本件事故においては、原告及び被告光弘の双方が、対向車両があつた場合には直ちに停止することができる速度で、道路の左端に寄つた部分を進行すべき義務があつたにもかかわらず、いずれも右義務に違反して進行した過失があるというべきである。

また、相手方車両発見後の原告及び被告光弘の対応にはいずれもとりたてて非難すべき点はなく、相手方車両発見時には衝突の回避可能性はほとんどなかつたと考えられるから、右発見時点での速度の相違が両者の過失割合を決定する主要な要素となると考えられる。

そして、右見地から両者の過失割合を検討すると、原告の過失割合を三五パーセント、被告光弘の過失割合を六五パーセントとするのが相当であり、原告の損害から、過失相殺として、三五パーセントを控除することとする。

二  争点2(原告の損害額)

争点2に関し、原告は、別表1記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、別表2記載の金額を、原告の損害として認める。

1  入通院状況・後遺障害

まず、原告の損害額算定の基礎となる原告の入通院状況及び後遺障害について判断する。

(一) 甲第六ないし第八号証によると、原告は、本件事故直後、翠鳳第一病院に搬入されたこと、右病院で、右立方骨骨折、右第三・四中足骨骨折、右第三・四・五中足骨指節間脱臼、右第一楔状骨中足骨亜脱臼、右膝前部・左下腿切創、右第一趾挫傷の診断を受けたこと、原告は同病院に平成三年七月二〇日から同年九月二四日までの六七日間入院したこと、同病院に同月二五日から平成四年六月二七日まで通院したこと(実通院日数二九日)、同病院の医師から同日症状が固定した旨の診断を受けたことが認められる。

したがつて、右症状固定日までの入通院を、治療費及び慰謝料算定の基礎とすべきである。

なお、原告は、本件事故後に原告に生じた胃潰瘍も本件事故と因果関係がある旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、乙第二号証によると、胃潰瘍と本件事故との因果関係は存在しないと認められる。

(二) 原告の後遺障害が、自動車損害賠償責任保険において、自動車損害賠償保障法施行令別表一四級一〇号に該当する旨の認定を受けたことは当事者間に争いがない。

原告は、原告の後遺障害は、右別表の七級に該当する旨主張するが、原告がその根拠とする甲第九号証は、身体障害者福祉法別表の等級に関する意見書であつて直ちに採用することができず、他に、原告の後遺障害が自動車損害賠償保障法施行令別表の一四級を上回る等級に該当することを認めるに足りる証拠はない。

2  損害

(一) 治療費

(1) 原告の主張する治療費は次のとおりである(アないしエは訴状に記載。オは請求の追加申立に記載。)。

ア 平成三年七月二〇日から平成四年六月二七日までの翠鳳第一病院における治療費金一〇五万三四〇〇円

イ 平成四年四月一日から同年一〇月二一日までの翠鳳第一病院以外での治療費金二万八一六〇円

ウ 前記治療費明細書以外の翠鳳第一病院における治療費金二万三六〇〇円

エ 新見医院、滝川医院における治療費金八二七〇円

オ 胃潰瘍による平成四年五月一一日から平成五年一月五日までの治療費金二万四二二〇円

(2) 右金額のうち、アは金一〇五万四九〇〇円である旨被告らが不利益な陳述をするので、右金額を認める。

イは、木曽医院金二万一五三〇円(甲第一二号証の一ないし一〇)、兵庫県洲本保険所金二四八〇円(甲第一二号証の一一)、県立淡路病院金四一五〇円(甲第一二号証の一二及び一三)であり、いずれも原告本人尋問の結果によると、胃潰瘍の治療に関するものであると認められるところ、前記のとおり、胃潰瘍と本件事故との因果関係を認めることはできない。

ウは、平成四年四月二三日の分金一三八〇円(甲第一三号証の四)及び同年六月二七日から同年八月二〇日までの分金二万二二二〇円(甲第一三号証の一ないし三、五ないし七)であるところ、弁論の全趣旨から前者はアの差額に含まれていると認められ、後者は症状固定日以降の治療費であるから本件事故との因果関係を認めることができない。

エは、新見医院金二二八〇円(甲第一二号証の一四、第一四号証の一)及び滝川医院五九九〇円(甲第一四号証の一二)であるところ、前者は原告本人尋問の結果により胃潰瘍の治療に関するものであると認められるから、前記のとおり本件事故との因果関係を認めることはできない。後者は、原告本人尋問の結果によると、甲第九号証(身体障害者診断書・意見書)の作成費用であることが認められ、甲第六号証によると、後日、翠鳳第一病院の医師により自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書が発行されていることが認められるから、本件事故との因果関係を認めることができない。

オは、イ及びエの新見医院分との関係が明らかでないが、胃潰瘍の分である旨を原告が主張しているので、前記のとおり本件事故との因果関係を認めることができない(右金額の発生を認めるに足りる証拠もない。)。

(3) 以上のとおり、治療費は、アに関し被告らが認める金一〇五万四九〇〇円とするのが相当である。

(二) 付添看護料

甲第七号証によると、原告の入院期間中のうち、平成三年七月二〇日から同年八月七日までの一九日間、原告には付添看護が必要であつたことが認められる。

そして、原告は右付添看護料を金一〇万八〇〇〇円と主張するところ、被告らがこれを金一一万一〇九〇円であると不利益陳述するので(全額被告らが支払済み)、右被告らの主張によることとする。

(三) 入院雑費

前記のとおり、原告は本件事故により六七日間入院したところ、入院雑費を一日あたり金一三〇〇円の割合で認めるのが相当である。

したがつて、入院雑費は金八万七一〇〇円となる。

(四) 交通費

原告本人尋問の結果によると、原告の主張する交通費金六一八〇円(甲第一一号証)は、冷蔵庫を原告の自宅から翠鳳第一病院まで運搬したが、大きすぎて持つて帰るように病院から言われたため、再び自宅まで運搬した往復運賃であることが認められる。

そして、右費用は、本件事故と因果関係のある費用と認めることはできない。

(五) 休業損害

甲第一五号証、原告本人尋問の結果によると、原告は「しきみ」の栽培を業としていること、本件事故当時、原告の年収は、少なくとも金一七六万三三二五円あつたことが認められる。

そして、前記認定の原告の入通院状況、原告本人尋問の結果により認められる退院後の稼働状況に鑑みると、本件事故発生日である平成三年七月二〇日から症状固定日である平成四年六月二七日までの三四四日間に対応する休業損害を認めるのが相当である。

なお、被告らは、原告の実収入額はより少額であつた旨を主張し、乙第七、第八号証によると、平成二年一月一日から同年一二月三一日までの原告の営業所得は金五六万六三六三円として申告されていることが認められる。しかし、賃金センサス平成二年度第一巻第一表の産業計、企業規模計、男子労働者、学歴計、六〇~六四歳に記載された金額(これが年間金三八九万七一〇〇円であることは当裁判所に顕著である。)に照らし、前記のとおり、本件事故当時、原告の年収は、少なくとも金一七六万三三二五円あつたと認めた次第である。

また、被告らは、実際の休業期間はより短時間であつた旨を主張するが、採用の限りではない。

したがつて、休業損害は、次の計算式により、金一六六万一八七三円となる(円未満切捨て。以下同様。)。

計算式 1,763,325÷365×344=1,661,873

(六) 後遺障害による逸失利益

前記のとおり、原告の後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表一四級一〇号に該当すると認めるのが相当である。

そして、右等級と原告の本人尋問の結果から認められる退院後の稼働状況によると、右症状固定日(原告は満六四歳)から三年間にわたつて、原告は労働能力の五パーセントを喪失したとするのが相当である。また、後遺障害による逸失利益の算定の基礎となるべき収入は前記金一七六万三三二五円とするのが相当であり、本件事故時(原告は満六三歳)における現価を求めるため、中間利息の控除につき新ホフマン方式による(四年の新ホフマン係数は三・五六四三、一年の新ホフマン係数は〇・九五二三。)のが相当である。

したがつて、後遺障害による逸失利益は、次の計算式により、金二三万〇二九〇円となる。

計算式 1,763,325×0.05×(3.5643-0.9523)=230,290

(七) 慰謝料

前記認定の本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、原告の入通院期間、後遺障害の内容、程度、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により原告の被つた精神的苦痛を慰謝するには、金一七〇万円をもつてするのが相当である(うち後遺障害に対応する分は金八〇万円。)。

(八) 物損

これを認めるに足りる証拠はない。

(九) 小計

(一)ないし(八)の合計は金四八四万五二五三円である。

3  過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、過失相殺として、原告に生じた損害から三五パーセントを控除するのが相当である。

したがつて、右控除後の金額は、次の計算式により金三一四万九四一四円となる。

計算式 4,845,253×(1-0.35)=3,149,414

4  損害の填補

乙第一〇号証の一及び二によると、被告側の保険会社から翠鳳第一病院に治療費金一〇一万八五〇〇円が支払われたことが認められる。

なお、原告は、右支払は、原告の主張する治療費に対応していない旨主張するが、乙第一二号証の一及び二、弁論の全趣旨によると、本判決で認定した右治療費に対応していることが認められ、原告の右主張を採用することはできない。

また、乙第一一号証の一によると、被告側の保険会社から付添看護料金一一万一〇九〇円が支払われたことが認められる。

さらに、乙第一一号証の二ないし一一によると、被告側の保険会社から原告に対し、金一二〇万九八八〇円が支払われたことが認められる。

したがつて、右合計金二三三万九四七〇円が、過失相殺後の原告の損害から控除されるべきであり、右控除後の金額は、金八〇万九九四四円となる。

5  弁護士費用

原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告らが負担すべき弁護士費用を金八万円とするのが相当である。

6  遅延損害金

右認容額は、訴状における請求に対応しているので、これに対する平成三年七月二〇日から支払済みまでの遅延損害金を認めるのが相当である。

第四結論

よつて、原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるのでこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表1(原告の請求額)

別表2(認容額)

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